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ホクレアが教えてくれたこと: …

ホクレアが教えてくれたこと: 池田恭子氏 Vol. 01

2021.07.06

ハワイに暮らし、航海カヌーに関わりながら、「健やかさ(sense of wellbeing)」そしてハワイを通して見えてくるこれからの生き方について発信をしている、池田恭子氏。2007年航海直後に書いたホクレア航海回想録をお届けします。

ハワイに暮らし、航海カヌーに関わりながら、「健やかさ(sense of wellbeing)」そしてハワイを通して見えてくるこれからの生き方について発信をしている、池田恭子氏。2007年航海直後に書いたホクレア航海回想録をお届けします。

池田恭子氏 プロフィール

海の素人ではあるが、2007年のホクレア日本航海に通訳・教育プログラム担当で乗船。その経験を経て、「わたしたちの健やかさはどこからくるのか」という問いをもちながら、日本とハワイをつなぐ学びのプログラムを共創する仕事に携わる。現在はカウアイ島で子育てをしながら、大学で国際プログラムのコーディネーターの仕事をする。カウアイの航海カヌー「ナマホエ」にも家族ぐるみで関わっている。ハワイに暮らし、航海カヌーに関わりながら、「健やかさ(sense of wellbeing)」そしてハワイを通して見えてくるこれからの生き方について発信をしている。

この記事は2007年航海直後に書いたホクレア航海回想録から抜粋。

内面への旅

Prelude

おそらく5年くらい前。いろいろな意味で、道を見失っていた時期だった。それまで周到に計画していた私の人生。それらが根底から崩れていく、そんな感覚を覚えていた頃だった。これまで自分が来た道を疑い、自分を疑い、人を疑っていた。前に進むのが怖くてしかたがなかった。でも、前に進めないのも怖かった。前に進んでも、後ろに進んでも、深い暗闇に吸い込まれてしまいそうで、ただただ足がすくんだ。

私がホクレアについて始めて知ったのは、そんな毎日が続いていたある日のことだった。ある雑誌にあった、ホクレア号の記事。そこに書かれていたのは、ナイノア・トンプソンという先住ハワイアンの血をひく男性が、“Wayfinding”・伝統航海術を学び、そして、先祖の来たタヒチ-ハワイを繋ぐ海の道を伝統航海カヌー「ホクレア」で渡る航海を成功させるまでのストーリーだった。

私の心はただただそのストーリーに惹かれた。ナイノアとホクレアのストーリーとは、先住ハワイアンが自らの文化と伝統に誇りと希望を取り戻すストーリーでもある。でも、その時のわたしにとって、それは、内面の旅を象徴するストーリーであった。人が本当の意味で生きようとするとき、人生は人を内面への航海、深い旅へといざなう。そして、それは、普段つかう二つの目ではない、「心の目」で見えない島を見ることを要求する。ナイノアの学びのプロセスとホクレアの軌跡は、それまで、目に見えることだけを信じて進んできた私に、心の目をつかって、暗闇の中を進むことを教えてくれた。それは、自分を知ることであり、自分を信じることであり、自分と深くつながることで、この世界にあまねく存在する道標に気づくことだった。そして、目では見えない「島」を感じ、そして、信じ前に進むことだった。

そして2006年に導かれるようにいったハワイでナイノア・トンプソンに出会い、2007年1月に始まったホクレアのミクロネシア・日本への航海へ参加させてもらう運びとなった。5年前、暗闇に立ちすくんでいた私は、このようなことになるとは夢にも思っていなかった。5年前に始まった内面への旅が、ひとつの区切りを迎え、新たな旅が始まろうとしていた。

2007年新たな旅のはじまり

2007年5月16日、私はホクレアの日本航海に参加すべく福岡に向かった。マリーナにつき、私はすぐホクレアに会いに行った。海に浮かぶホクレアは美しく、胸が熱くなった。自分がいま、ホクレア号を目の前にしていること、これからこのカヌーにのって航海に出れる、ということが信じがたかった。5年前内面の旅へとわたしを誘い、そして、未知なる海へと漕ぎ出す勇気をくれたホクレア。ホクレアへの感謝の気持ちでいっぱいだった。

Hokulea_Fukuoka

天候の状況で福岡からの出航が予定よりも何日か伸びた。その間ホクレアを一目見ようと多くの人が桟橋を訪れた。クルーは出航にむけて作業をしていても、カヌーを見たいという人がいれば笑顔でカヌーの案内をした。心からの笑顔で。みんな自分たちが大切にするカヌーを人に知ってもらうのがうれしくてしょうがないようにみえた。3週間を共に航海して、カヌーを見たいという人をクルーが拒ぶところをわたしは一度足りともみなかった。義務感からではなく、自然にそのように人々と接するクルーを私も新米クルーとして不思議に眺めていた。「彼らのそのようなあり方はどこからくるのだろうか?」

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